こんにちは、ヒデヨシです。
あなたはピアノの調律師ってどういう仕事しているか知ってますか?もっといえば、ピアノの調律ってどういう風にするか知っていますか?マイナーすぎて分からないでしょう。
話題書『羊と鋼の森』(宮下奈都 著、文藝春秋)は、そんな現代ではマイナーになりつつあるピアノの調律師にフォーカスしています。ピアノの調律師として未熟ながらも奮闘する新人調律師の成長を描いた物語です。
ピアノ奏者である著者の視点、調律師へのインタビューなど、かなりの研究を通して「調律」のノウハウや人々の想いが細かく描かれています。
全体として穏やかな雰囲気に包まれる独特な比喩表現が多く、物語に引き込まれます。読んだあとはまさしく、美しい音楽を聴いたあとのような余韻に浸ることができます。
さて、本書にはものすごく遠回りでわかりにくいたとえ話を使う「柳さん」というキャラクターが登場します。私は一番好きなキャラです。
読んでいると、回りくどすぎて、すごくもどかしい!(もちろんそういうキャラ設定ですが。)たとえ話での言いたいことはわかるんですが、言いたいことを上手く表せてない不器用な感じがすごくよく表現できています。
今回は本書より、そんな愛嬌ある柳さんの分かりにくいたとえ話をご紹介しつつ、良い点と改善点を学びます。
柳さんのたとえ話シリーズ「チーズ」
(P.34-P.35)
お客さんから曖昧な依頼をされたとき、どのようにして調律するのかを主人公の外村に聞いたシーンです。
“ 「つい最近、どこだかで賞を獲ったっていう本物のカビのチーズを食べたら、びっくりしたさ。常識の範疇を越えてるっていうか、これ普通食えないだろっていう匂いなんだ。でも、あれが多くの人に認められて噌を撮るんだ。うまいうまいって食べる人がいるんだ。味覚って奥が深いよ」
「でもさ、外村、お客さんにチーズみたいな音に調律してくださいって言われたらどうする」
主人公の外村は冷静に答えます。
“ 「まずは、チーズの種類を確認します。ナチュラルか、プロセスか。それから熟成の具合を訪ねると思います。」色や匂いや、やわらかさ、もちろん味も、発酵と熟成の具合によってある程度想像できる。そこから音をたぐっていくのはどだろう。
ピアノをチーズみたいに調律してというお客さんはいないと思いますが、つまりは、「主観的・感覚的な注文をされた場合にどのように答えを出すか」という問いかけです。
柳さんのたとえ話シリーズ「ゆで卵」
(P.35-P.37)
同じくお客さんから曖昧な依頼をされたとき、どのようにして調律するべきかを主人公の外村に主張したシーンです。
“ 「半熟が好きな人と、かたゆでが好きな人がいるよな」「半熟でも、とろっとろがいい人もいれば、しっとりとしてる程度でいい人もいる。」「要するに、好みの問題なんだ。ピアノにどんな音を求めるのか、それはお客さんの好み次第だよ」
続きます。
“ 「蒸したアスパラガスに添えるのは、温泉卵に近いようなとろとろのゆで卵がいい。それをソースのようにからめて食べるとおいしい。だろ?お客さんはそれを食べたことがあって、その上で尚、かたゆでがいいといっているのか、もしくは、ゆですぎた卵しか知らなくてかたゆでがいいと言っているのか、その辺の見極めが難しいんだ」
まだまだ続きます
“ 「やわらかい音にしてほしいって言われたときも、疑わなきゃいけない。どのやわらかさを想像しているのか。必要なのはほんとうにやわらかさなのか。技術はもちろん大事だけど、まず意思の疎通だ。できるだけ具体的にどんな音がほしいのか、イメージをよくたしかめたほうがいい」
音にもかたい音、やわらかい音があり、単にどちらかではなく、かたいとやわらかいのグラデーションの中のどこがいいのか、お客さんと打ち合わせをしっかりしましょうというたとえ話です。
これは会社など、他の人に仕事を依頼する時に感じることではないでしょうか。仕事を頼む相手と成果物のイメージの擦り合わせができていないと期待したものとは違うものができてしまいます。社会人として勉強になるたとえ話です。(わかりにくいですが)
柳さんのたとえ話シリーズ「レストラン」
(P.118)
これは、主人公の外村が調律したピアノに対してお客さんに怒られた後、慰めたセリフです。
“ 「たとえば、上手いレストランがあったとして」「その日の体調や気分にぴったりのメニューをつくってくれたら、そりゃいいよな。でも、その店の良さを信じているなら、自分に合わせて日によって味付けを変えてほしいとか言わないだろ。」
「そのメニューにこちらが合わせようとするんじゃないか。確固としたうまいメニューを食べにいく心意気みたいなものが客の側にもあって然るべきなんだよ」
「まあ、レストランだとしたら最初のひとくちで上手いと思わせなきゃならない」
プロは来てもらう客に合わせて料理を出す場合もありますが、基本はプロの味を食べにレストランに行きます。その味がイマイチだったら、そりゃガッカリしますよね。(その結果主人公は怒られました)
プロの調律師として、最高の料理(ピアノの調律)を提供できるように頑張っていこうよ!という慰めのセリフです。
柳さんのたとえ話のいいところと改善点
・良いところ
柳さんのたとえ話は、食べ物を主軸につくられています。食べ物でたとえ話をすると、世界中の人がイメージ化と共感を生み出しやすいのでとてもわかりやすくなります。
・改善点:結論を最初に言う
柳さんのたとえ話シリーズは、どれも結論が最後に来ています。本書でも主人公の外村の心情で描かれていますが、かなり回りくどい!
相手に理解・共感してもらうたとえ話をするなら、まず結論を言ってから、「たとえば〜」と続けた方が相手もイメージ化しやすいでしょう。一般的なコミュニケーションでも気をつけたいところですね。
柳さんは「回りくどいたとえ話をつかう」というキャラクターを確立しています。伝わりにくいたとえ話をする人は、逆に強いキャラクターを読者に植え付けることができます。
小説の表現手法として、人物のキャラクターづくりの参考にしてみてください。
まとめ
・食べ物でたとえるとみんなにわかりやすい
・結論を言ってからたとえる
・分かりにくいたとえ話をつかうキャラクターは愛嬌がある
本書のタイトル「羊」「鋼」「森」。実はそれぞれ作中でいろいろな形でたとえられています。一つのモノを多角的にみて表現するというのは文学の醍醐味ですね。特に「森」のたとえは数種類に及んでおり、その発想力、表現力には感動させられます。
文学って面白いですね!本ブログで紹介する本はビジネス書ばかりで文学作品には手を出していなかったのですが、これからは自分の幅を広げていきます。
以上、最後まで読んでくださりありがとうございました。
ヒデヨシ
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