スピーチのトレーニング機関「Toast Masters(トースト・マスターズ)」。世界122カ国で29万人以上が所属する非営利の教育団体であり、クラブのメンバーは様々なプログラムを通してスピーチスキルやリーダーシップスキルを学んでいます。
書籍『スピーチ世界チャンプの魅惑のプレゼン術』(Jeremey Donovan,Ryan Avery著、福井久美子訳)にはトーストマスターズ国際大会優勝者へのインタビューを通して得られたスピーチコンテストで勝つためのノウハウがまとめられています。
“ スピーチ力を磨けば、ビジネス・リーダーとして成長できる
(はじめに より)
本書は全11章+αで構成されており、ストーリーの組み立て方や言葉の一言一言を厳選する作業など、細かい部分にまで気を配った実践的テクニックを学べる一冊となっています。プレゼンスキルをアップさせたいなら一読の価値ありです。
<目次>
1章 心を揺さぶる話題を選ぶ
2章 スピーチを構成する
3章 ストーリーを語る
4章 ユーモアを磨く
5章 聴き手の感情を揺さぶる
6章 スピーチの原稿を練りあげる
7章 言葉を伝える技術を磨く
8章 非言語コミュニケーション
9章 効果的な視覚資料を作る
10章 恐怖と不安を克服する
11章 無心でスピーチするために
付章 チャンプが教える優勝の極意
今回は2010年優勝のDavid Henderson(デイヴィッド・ヘンダーソン)氏によるスピーチ『アヴィエーター』より、わかりにくい専門用語を排除した血液疾病のたとえ話から、スピーチで実践したい3つのシンプルなイメージ化と共感テクニックを学びます。
難しい専門用語はお好きですか?
“ 業界用語や独特の略語などの専門用語は削除するべきです。専門用語を使う方がプロっぽく見えそうだ、などと考えてはいけません。実際には、専門用語を使うと、ますますプロらしく見えません。あなたが連発する専門用語の意味が分からない人は、話に興味を失うでしょう。
(P.114)
重要なのはあなたがプロであることを相手に示すことではなく、プロとして相手に価値ある情報を伝えることです。専門用語を使うときはその意味と価値がきちんと伝わるように聞き手の理解度に合わせて表現を調節する必要があります。
David Hendersonのスピーチには「鎌状赤血球症」という病名が登場します。彼は幼少期に初恋の女性がこの病にかかり、彼女は短い生涯を終えました。大切な人を失なって辛くても愛によって人は何度でも立ち直れるというメッセージを私たちの心に訴えかけます。
鎌状赤血球症という聞き慣れない医学用語とその症状をシンプルに聞き手に伝えるためにどのようなテクニックを使って共感を得たのか、スピーチの内容を詳しく見ていきましょう。
スピーチ世界一が実践する3つの専門用語の伝え方
David Hendersonは鎌状赤血球症についての聞き手の理解度を予測し、最も伝わりやすい表現でスピーチしました。
“ これは遺伝性の血液疾患です。アフリカ系アメリカ人がかかる病気だと考える人もいますが、中東、アジア、南米に至るまで、世界中の人がかかります。(中略)通常の赤血球はディスクのような形をしていて、血管を自由に通り抜けることができます。鎌状赤血球はカマのような形をしています。凝集しやすく、交通渋滞になると症状が起きます。最初は元気ですが、感染し、また元気になって、次に痛みを感じ、また元気になり、その次は死に至るのです。確実な治療法はまだありません。
(P.229)
Photo by Wellcome Images via flickr |
Photo by Wellcome Images via flickr |
鎌状赤血球症とは遺伝性の貧血病です。赤血球は体の中に酸素を行き渡らせる機能がありますが、通常丸い形が鎌状になることで、酸素の運搬能力と血液の流れが悪くなり体が部分的に壊死してしまったり、死に至る病気です。(上写真:正常な赤血球、下写真:鎌状赤血球)
David Hendersonは鎌状赤血球症をシンプルに説明するために以下の3つのことを意識しています。
1.統計データを使わない
鎌状赤血球症になる人の統計データを示すこともできますが、それをせずに世界中の誰しもがかかりうる病気だということを伝えて、私たちに当事者意識を生み出しています。
2.世界共通でイメージできるたとえ話をつかう
正常な赤血球を「ディスクのような形」とたとえ、鎌状赤血球の形を文字通り「カマのような形」とたとえています。ディスクもカマも世界中の誰しもが知っているものであり、赤血球の形の変化が簡単にイメージできます。
また、カマが引っかかり血流が止まってしまう特性を「交通渋滞」とたとえました。世界の誰しもが体験したことのある渋滞の苦痛と一緒にイメージ化させて共感を誘います。
3.結果を感覚的に伝える
鎌状赤血球が最終的に死に至るという結果を伝えることが目的なので詳しい説明は割愛しています。変わりに、痛みと回復が交互に死ぬまでやってくる辛い病気であることを、感覚としてわかりやすくイメージ化させて感情をかき立てています。
*
数値データを示すことは相手を説得する際に必要ですが、目的はデータを示すことではなく、どのような病気なのかをその場でイメージしてもらうこと。TEDのプレゼンでは積極的に数値データを示していますが、スピーチのコア・メッセージ(一番伝えたいこと)から逸れないようにあえて数値を示さないことも選択肢の一つとして意識しておくとよさそうです。
聞き手のレベルに合わせて、柔軟に表現を調節していきましょう!
まとめ
“ プレゼンで重要なのはあなたの知性で聞き手を魅了することではありません。聞き手のために何かを伝え、刺激し、納得させ、そして楽しませることを忘れないでください。
(P.111)
「難しい専門用語を知ってるなんて、すごいなあ。でも結局何を伝えたいんだ?」と相手に思われてしまっては元も子もありません。専門用語で自分をかっこよく見せたくても一瞬立ち止まって、相手に確実に伝わる言い換えやたとえ話を考えてみましょう。
以上、最後まで読んでくださりありがとうございました。
ヒデヨシ
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